まえがき
はじめまして、中学受験算数専門・プロ家庭教師の熊野孝哉です。2007年に初めて本を書かせていただいてから、本書は11冊目(改訂版を含めれば19冊目)の出版ということになります。
本書を書いている直近の入試(2016年2月入試)では、家庭教師で指導していた難関校受験生9名が全員、難関校へ進学することになりました(※1、2)。また、開成中学には2010年以降の7年間で、受験者9名中7名が合格しています。
※1…内訳は、筑駒、開成、桜蔭(2名)、女子学院、豊島岡、聖光(2名)、海城
※2…実績は「授業で難関校対策を7ヶ月以上実施」「受験直前(1月末)まで受講」等の条件を満たす生徒のみが対象
集団指導の場合、最難関校に通算で数百名の合格者を出している先生もおられます。ただ、多くの生徒を抱えられないという個別指導(家庭教師)の性質を考えれば、結果を出せている方ではないかと思います。
本書は「難関中学編」ということで、算数の学習法を中心に難関校対策を1冊にまとめています。まずは単独のテーマとして「塾選び」「先取り」「塾課題と自主課題」、次に算数の学習法を時期別に書き(算数から外れる内容も一部ありますが)、最後に「その他」として過去の執筆記事(メールマガジン等)を中心に掲載しました。
本書の内容の大半は数年前に既に固まっていたもので、もう少し早く公開することも可能でした。しかしそれをしなかったのは、まだそのタイミングではないと感じていたからです。
実績がない時点で書けないのは当然ですが、例えば開成の通算合格者が2名の時点で「開成に合格する秘訣」を語ったところで、再現性に疑問があります。「秘訣」だと思っている内容が「仮説」に過ぎず、次の受験生では失敗するかもしれません。
2016年度入試の結果次第では、本書の出版を見送る可能性もありました。ただ、高い確率で良い結果が出るという感触はあったので、エール出版社さんには事前に許可をいただき、入試直後には出版に向けて動けるように準備を進めていました。
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本書では、難関校受験生にとって有益だと思える内容はできるだけ正直に書くということを意識しました。「こういうことを書くと批判されるかな」と思って書くことを迷った内容も多く書いています。
1章では公文式を肯定的に書いていますが、公文式と聞いただけで過剰に反応する「アンチ公文式」の人も多いことを考えれば、本当は触れない方が安全かもしれません。
同じく1章で「成果が出ない場合、才能、努力、方法、環境のいずれかに原因がある」と書いていますが、これも(前後の文脈を無視して、この箇所だけを取り出せば)曲解される恐れがあります。
6章では、目的が曖昧な勉強を「趣味の勉強」と表現したり、7章では、追い込み型の受験生は(最難関校入試では)「追いつけない」といったことを書いていますが、これも批判する人はいると思います。
ただ、批判を避けるために内容や表現を選び、慎重になりすぎると、結局は何を言いたいのかが分からなくなってしまいます。
内容や表現に気に入らない箇所があるかもしれませんが、そういう事情もあるということをご理解いただけましたら幸いです。
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本書は難関中学編ということもあり、中学受験の基礎知識があるという前提で、説明を省略している箇所も多々あります。そのため、全体的に読み辛いという印象を持たれるかもしれません。
8章では過去の執筆記事を多く掲載していますが、既に読んだことがあるため「無駄だ」と思われる方もいると思います。ただ一方で、過去の執筆記事から特に必要なものを集約してほしいという要望もあります。
私の実感ですが、過去の執筆記事を大体読んだことがある(または本書を読んだ後に読む)という方は、読者の2割程度だと思います。本書で掲載するか迷ったのですが、多くの読者(特に時間的に余裕がない方)にとってはプラスになるのでないかという判断で、最終的には掲載することにしました。
本書は万人受けする性質のものではありませんが、少数であっても深く気に入っていただける方がいれば幸いです。
2016年3月
熊野孝哉